ブライトライトや、ライトセラピーに関係する記事を有名新聞・雑誌などから抜粋しています。

日経ビジネス2004年8月2日号より抜粋


心と体

診断室

時差ぼけは光療法で解消

東京慈恵会医科大学付属青戸病院
(東京葛飾区)副院長 伊藤 洋


米国へ出張で、時差ぼけに陥った営業マンのSさん(45歳)。
うたた寝程度で朝を迎える日が数日続き、厳しい交渉が不利な結果に終わってしまった。
年間1200万人以上が海外に出かけるボーダレス社会、「時差ぼけ」と言う言葉は日常用語だ。睡眠障害国際分類では、概日リズム性睡眠障害に分類される、「時差症候群」という正式名称がある。海外旅行のプロである航空乗務員でさえ、8割以上が時差症候群に悩まされている。たかが時差ぼけだが、身の安全や仕事に支障を来たす状態は避けなければならない。

4〜5時間の時差で発症

人間は本来、昼間活動し夜眠る。この1日のリズムを刻んでいるのが体内時計だ。最近の研究では、体内時計は脳の視交差上核、松果体にあり、昼と夜で活性と不活性を繰り返す「時計遺伝子」がその正体だとされている。
ジェット旅客機は、この体内時計の適応能力をはるかに超えた速さで我々を時差のある場所に運ぶ。4〜5時間以上の時差があると、体内時計が到着地の現地時間に同調できず、時差症候群を引き起こす。昼間だらだらと眠い、疲労感や食欲低下、頭がぼんやりする、胃腸障害などの症状が出る。
1日は24時間であるが、体内時計の周期は不思議なことに約25時間であることが分かっている。そこで理論上は、眠くなる時間が1日1時間ずつ遅くなる。それにもかかわらず、健康な人が1日24時間のリズムに適応して規則正しい生活を遅れるのは、太陽光を浴びることなどによって、毎日体内時計が補正されるためだと考えられている。
2500ルクス以上の高照度光により、メラトニン(睡眠や生体リズムに関与する物質)の分泌が抑制されることが報告されたのは1980年。以来、光が体内時計の調節に最も重要な要因であることが明らかになった。

地域によって調整を

米国(東方地域)の場合、現地時間に対して生体時計を巻き戻す。つまり、生体リズムを早寝早起きの習慣に変えればよいわけだ。欧州(西方地域)ではその逆だ。一般に夜更かしの方向にはリズムをずらしやすいが、早寝早起きの方向へは難しい。東方への海外旅行で時差症候群が出やすいのはこのためで、時間生物学的な必然性がある。
生体リズムの朝(睡眠から覚醒への移行時)に強い光を浴びると、体内時計は巻き戻る。逆に、体内リズムの夜の前半部(覚醒から睡眠への移行時)の光は、生体時計を遅らせる。そこで、Sさんが時差症候群を克服するには、米国時間の午前中はなるべく日に当たらず、午後から夕方(日本時間の明け方)にかけて日光浴をするとよい。
光療法以外にもビタミンB12やメラトニンなどの薬物療法があるが、服用の量やタイミングに注意が必要だ。なお、睡眠薬は種類によっては効果が無かったり、アルコールとの併用で健忘症を引き起こしたりする恐れがあるため、医師の指導を受けたい。

(談話まとめ:杉本 順子=医療ジャーナリスト)